「急ぎの仕事ほど忙しい人に頼め」は本当か?

訪問先のクライアントでのこと。
課長とその部下のチームで販売促進の企画会議をしていた。
そこへ営業部長が登場し、部下の一人を会議室から連れ出した。
5分程度で戻ってきた彼は、少し怒りモードに入っていた。
「クソ忙しい時に、急ぎの仕事をたくさん振って・・・なんでやねん!」と。

➽➽「急ぎの仕事ほど忙しい人に頼め」は本当か?

これは一般的にビジネスマンなら誰でも通過儀礼のように若手の内に経験する。
現在35歳以上の人なら一度や二度は経験したことはあると思う。
それ以下の人となると、あまり聞かない。
「人に優しく」とかなんとかをちょっと勘違いした捉え方をしている人が増えたからだろう。
この記事を書いた2010年9月時点を思い出すと、「人に優しく」というフレーズが流行っていたように思う。十分な人材育成もしないまま、欧米式の成果主義に走り過ぎたことや、成果評価だけでは従業員満足が図れないと反省した動きが高まり始めた時期。ライフワークバランスという言葉も耳にする機会が増えた時期でもある。 (2020.06.12追記)
なぜ、「急ぎの仕事」を「忙しい人」に頼むかというと、頼む側の立場にたって考えてみるとおおよそのところはわかるだろう。

➽アテにされているということ。

件の彼も、自分がそれなりに「アテにされている」ことはわかっているから、怒りながらもどこか喜んでいた。
怒りながらも、「しゃあないなあ」と愚痴りながらもモチベーション満載感を漂わせていた。

・どうでもいい仕事ならば、急ぎでなくてもよい。
・どうでもよくないからこそ、急いでいる。

急ぎの仕事を振られる側として、この2つを理解しているかどうかで、急ぎ仕事を受ける時の動きが変わる。

●急ぎ仕事を受ける時の確認事項
・期限を確認する
 急ぎであるからこそ、これは重要であるし、次の確認事項につながる
・自分の仕事の優先順位と劣後順位を確認する
 現在、進めている仕事と並列処理しなければならないのか、それとも現在の仕
 事の期限をずらしても良いのかの確認をする。ある意味上司との交渉となる。
 この上司との交渉力は、外部との折衝力に直結することはいうまでもない。
・直近で依頼してきた上司との打合せ時間を設ける
 急ぎで取り組んだ場合の抜け漏れを防ぐためにも、仕事の方向性や判断基準な
 どを確認する時間を確実に取る。具体的な指示がない限り、方法はまかせられ
 ていると捉えて良い。肝心なことは方向性を間違わないことだ。

忙しい人は、常に時間を気に留めているのが通常だ。
そして常に「問い」を持ち続けている。
仕事のタスクをいつまでに終えなければならないか?
そのタスクの次はどんなタスクがあり、またプロセスに進むのか?
その仕事とは別の仕事の次のステージはどこか? 
といった具合だ。









●なぜ、時間的に余裕がある人に振らないのか?
ここでいう時間的に余裕がある人は、言い方は悪いが、「暇な人」のことだ。
その暇な人に急ぎの仕事を振るとしよう。
依頼側である上司は、それをするとロクなことにならないことを知っている。

なぜ、知っているかというと、暇な人達は、上に示した「急ぎ仕事を受ける時の確認事項」を怠りがちだからだ。
そして、大抵、些細なことに気をとられ、結論から考ない。
また、かなり時間が経ってから具体的な指示を求め、言われたことだけをする。
急ぎの仕事の場合は、すぐさま、具体的な指示を求め、それを実行する。
それでも、その急ぎの仕事は完了する。ここまでは良い。
「ご苦労さん。ありがとう。」で終わる。
しかし、その完了した仕事にも、完了させた「暇な人」に付加価値はない。
なぜ付加価値がないか?
具体的な指示を求めていることは、それは即ち上司が考えたことであるからだ。指示を受けた人はただ実行しただけだと判断されるからだ。
なので、暇な人は、仕事が遅いと思われがちで、つまらないものしか出してこないと判断されてしまう。せっかく急ぎの仕事を完了させたにも関わらず、「考えていない人」と自ら評価を下げることをしているということだ。

●忙しい人と暇な人の違い
仕事の量も質も高いものを持っているかどうか。つまり生産性が高いかどうか。
通常はこのあたりでしかない。
いつもきちんとした仕事をしているから、急ぎの仕事を依頼される。

急ぎであっても、きちんと仕事をしている人は、ツボがわかっているから、些末なことにとらわれず、核心をついた進め方をして、早く上げる。
早く仕事を上げる人の共通するのは、えてして「仮説」を打ち立てるのが早い
「仮説」を立てると、それが成立するか否かの机上検証よりも、成立するように構築する(都合のいいようにするという意味ではない)。
机上検証をその後に取り組み、不具合を調整する。
また仮説を立てた後、考えをまとめていく中で、息詰まる時があると、それは一旦ワキに起き、また最初から違った仮説づくりに入ったりもする。

こういった仮説を次々に打ち立てて仕事をする人は、その仕事を振られてから考えるというよりは、常日頃からその事もしくはその周辺について、つらつらと考えている。
情報量が圧倒的なのだ。
同時に情報リソースをたくさん持っている。内部にも外部にもだ。
当然依頼する側もそのことを知っている。
なので早い段階で打ち立てた仮説も外すことは少ない。
仮説を外すことがないとわかっているから期待される。

そうするとスタートした時点で、「仮説」という到達点を見据えてやっているので、スタートダッシュは当然早くなる。
だから忙しくても依頼される。
これを若手の内に経験している人とそうでない人の違いは大きい。

➽急ぎでない仕事を「急ぎ」と称している場合もある

しかし、本当は急ぎでもなんでもない仕事を振られている場合も実はある
それは、どれだけの力量を持っているか試されている場合が多い。
あるいは、持っている力量を更に引きだそうとしてくれている場合もある。
そしてそれで穴を空けたりすると、そこまでの量ならば大丈夫と判断される。
しかしきっちりやると、更に要求され、そのうち本当に忙しくなってきて、それこそ「急ぎの仕事ほど忙しい人に」となる。
これはれっきとしたひとつの人材育成方法だ。
こうした「試す/試される」といった人材育成方法は、人に仕事が着いて回ることになり、疲弊・過労というものが起きる要因の一つとされ、現在はあまり歓迎されてはいない。働き方改革の一環で社員にとって公平性を保つ仕事の持ち方/持たせ方が主流になり、一人に集中するのはパワハラと受け取られることもある。しかしマネジメントする側にしてみれば、それでは高いポテンシャルを持っている人を伸ばしていけないというジレンマも同時に発生する。少なくともマネジメント側のスピードを越える人材は育つことは少なくなるだろう。要はしっかり相手を見て、対話を重ねバランスを取っていくしかないだろう。(2020.06.12追記)
●頑張った/頑張っている評価の正体
特に顧客接点を持ってビジネスをしている場合、穴は許されない。
穴を空けたら、次はもうない。
売上が低下するばかりか、それこそ会社全体が食いっぱぐれてしまう。
だから必死になって依頼されたことをなんとかやり遂げる。
これは昭和時代に社会人となり、失敗を重ねながらも成果を生み出してきた人や会社全体の意思決定、もしくはそれに近いポジションをついている人達の多くが持つ価値観ではある。

昭和・平成の時代から生産性の向上は常に求められてきたことは変わりないし、今後は求められる「質」以上のものを納期内に納めることができるかどうかが問われる時代になっていくとも言われている。
頑張ったかどうかが評価されるのは、その次でしかない。
依頼を受けた時点で上記3つを確認し、「何をいつまでにどれぐらい」やればいいのかを自分で考えタスク化できるかの自律性だし、きちんと依頼者に対して答えられているかどうかということだ。
依頼する側はその辺りの姿勢を見ている。
それが「頑張った/頑張っている」の評価の本質だ。
現在は、結果評価もプロセス評価もほぼ同等に見る企業が多い。これにしてもプロセス毎の細いタスクは自分で考える他ない。ここで大きな差がつくことを知らない人は必ず文句が出る。そしてwithコロナの今、リモートワーカーを成果評価に切換える企業が出始めている。まるで以前の反省を忘れたかのように・・・。
働き方も働く環境も突然変わったのだ。従来のマネジメント方法でリモートワーカーをこれまでと同じ評価テーブルで扱うこと自体がおかしいことをマネジメント側は自ら見直す必要もあるし、評価される社員も自らの仕事に対する姿勢がどのようなものかを見つめ直すことも必要だろう(2020.06.12追記)
いったん受けたら、何がなんでもやる。やりきる。
それしかないだろう。
特に若手と呼ばれている内に、敢えて自分に課していくと良い。
それで、できなかったら言い訳もしたくなるだろう。

言い訳をすることは別に悪いことではない。
その後の「それで、どうするか?」を明確に持っているかどうかの方が重要だ。止める、諦めるという選択肢はないと思って、次のアクションを考えているかどうかだ。これがなければホントのただの言い訳にしかならない。まさしく「ガキの使い」と思われるのだ。
しかし大抵の上司は「どこまでやれたか、どれだけやったか」をしっかり見てくれている。ただ評価されるかどうかは上記した通りだ。

言われたことだけをやっていても何も変わらない。「よくやってくれている」という言葉はそこに発生するが、真意は、「だけど・・・」と続く。
これは経験数が増えていることは認めるが、成長は認めてもらえないということに他ならない。
経験につれて要領を覚えたまではいいが、仕事をこなすだけに終わる。
言われたことだけだけをやるのなら、いずれとって代わる人が出てくる。
その時、自分自身が次のステップにいけるかどうかは、言わずもがな。

この記事のタイトルである「問い」に対する回答は、やはりこれだろう。

「急ぎの仕事は忙しい人に頼め」は常にある。
この記事は2010年9月の時点で書いたものです。四角で囲んでいるところは追記したものです。読み返して追記しても、気になるところは、「人に仕事が付いていく」というところです。急ぎの仕事は多くの企業で相変わらず忙しい人に振られています。それをとってかわってやってやろうという気概の持ち主もあまり見かけることは少なくなりました。しかし、いわゆる暇な人は、言い換えれば2種類しかいません。圧倒的に仕事をするのが早いか、むちゃくちゃ遅いかのどちらかです。前者は簡単な仕事ばかりの仕事量に満足しながらも忙しいフリをしているし、後者は仕事が遅いがために多いと感じているのかもしれません。
そして、コロナ禍です。急ぎの仕事は忙しい人に行く。当然の成り行きだと見ています。(2020.06.12追記)

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