厭な扉を開ける前の相談

先日、クライアントの課長から相談したいと話があった。
聞けば、社長に呼び出されていて、これから会いに行くという。
どうにもこうにもソワソワして落ち着かないので、話を聴いてほしいという。
時間が多少許すものがあったので、じゃあ話をしましょうということにした。

➽➽突然の社長からの呼び出し

「突然、社長から呼び出されたんですよ。この後すぐに行かなきゃならないんですけど・・・。」
課長はいきなりそう切り出した。
元来、小心者の私は、そう話し始めたクライアントの課長の心情を察していた。

そうはいっても、こちらは物事の進行を介助する立場。
状況を聴いてみないことにはなんとも進めようがない。
かといって、いきなり何があったのかの核心に触れるほどの間柄でもない。
預かっているいくつかのプロジェクトのうちの一メンバーとはいえ、プロジェクト自体が始まった一ヶ月程度。まだ数回しか話していない。
なのに何故、私に相談を?と疑問はあるにはあったが、それがブラフかフェイントかどうかは後でわかるだろうと思い、確認することはやめた。
時間は限られているが、できる限りのことはしようと肚を決めて、じっくり聴くことにした。

以下、会話をかいつまんで再現した。

➽重くて分厚い厭な扉

呼び出しがあるのは、よくあることなんですか?
「しょっちゅうというわけではありませんけどね。たまに・・・あります」
Before opening the nasty door

 
社長室の前に立つ時は、いつもどんな気分なんですか?
「それはもう、一応ね、透明ガラスの扉ではあるんですけど、重くて分厚い木の扉にしか見えませんよ(苦笑)厭な扉です。」
 
毎回、重くて分厚い扉に見えるのですか?
「そりゃあ、一応、大企業と言われている範疇の会社ですから、社長室や重役の部屋って、それでなくてもビビりますよ。(苦笑)」

それでなくてもって、どういうことですか?
「いや、良いことであっても、褒められるようなことであってもという意味です。」

ということは、悪い話なんではないかと思っているということですか?
「そうなんですよ。なんかね。なんの話かわからない時は、悪いように考えてしまんです。」

➽緊張するとマイナスにハマる

そりゃそうですね。
何の話かわからんのなら、悪くとってしまうのはしょうがないですよ。
いやがおうでも緊張を強いられまよね。

私もいつも緊張します。
「ああ、先生でも緊張するんですか?」
そりゃしますよ。

なんかやらかしてしまったか?
知らないところでミスしたか?
何か気が付かないところがあったのか?
常にマイナスに考えてしまいますよ。
とりあえずは、そんな風には見せないように虚勢を張ってますけどね(笑)

だけど、預かっているプロジェクトについては、誰よりも考えているというものがあってね。
その部分で開き直っているところはありますよ。
「ああ、そうなんだ。自信をお持ちなんですね」
 
いやいや、自信というより、自負ですね。
考えていることが至っているのかどうかで言えば、自信も確信もないですよ。
自分の考えは多分どこか頼りないものがあるだろうなとも思っていますよ。
足りないところもあるだろうと考えてもいますよ。
完璧にできればどれだけいいだろうかとも思いますよ。

だけど、このプロジェクトに関しては誰よりも考えてるぞって、いつも思ってますよ。それだけですけどね(苦笑)
「ああ、なるほど。なんかわかるような気がしてきました。」
 
というと?どういうことです?
「さっき、このプロジェクトに関しては・・・とおしゃったじゃないですか。僕にはそれがないんです。それでね、今回、社長に何の件で呼び出されているのかわからないんです。今日の16時に来いというだけなんで。」
 
何の話かわからなければ、緊張しますよね。わかります。
「先生と一緒で、何の話かわからない時は、あれやこれやと考えてしまいます。ネガティブに考えてしまいます。どやされるんじゃないだろうか?とか。不安で不安でしょうがないです。」

今までにそういうことはありましたか?
「・・・うーん、言われてみれば、何の話かわからない時に呼び出し食らって、どやされたことは・・・多分、ありませんね・・・だけど・・・」

だけど?
「最近ちょっとしたミスをして、クレームにつながったことがありましてね。それのことかもとも思ったり・・・」

ああ、なるほど。
そのミスとかクレームは社長が直々にあなたに注意するようなレベルの大事になりそうなものなんですか?
「いや、それはすぐに処理したし、部長にも注意されましたけど、先方も笑って勘弁してくれてたし、契約条項に抵触するようなレベルまで影響しなかったので、問題はないと思います。」

➽➽緊張したまま会いに行くわけにはいかない

その気持ちのまま、この後、社長に会うんですか?
「僕、今、どんな顔ですか?」
最初は、冴えない、ビビりまくっている小動物のような感じでしたけどね。
質問をかわして違う質問で返せるぐらいだから、今は落ち着いているんじゃないですか?
「ああ、確かにソワソワはなくなりました。なんでですかね?」
話をしたからかもしれませんね。
「ああ、話をして聴いてもらえると効くというアレですか?」
多分ね(笑)。

続けて話した。
あれこれ考えてしまうことは誰にでもある。
そして悪く、ネガティブに、マイナスに捉えて、びびって怯んでしまうこともある。

➽よくよく考えてみると・・・?

だけども、緊張したまま社長に行くわけにいかないですよね?
「確かに。よくよく考えれば社長が怒るつもりなら、即刻来いとなるはずだから、変に緊張していくのも自分でも嫌です。」

何の話かまったくわからない、噂の欠片も耳に入ってこないのであれば、あれこれ考えても時間の無駄で、ストレスは溜まるだけだ。
そういう時は、素直に臨むしかない。

その時、どんなことを言われようが、どんなにキツイことであろうが、いったんは受け止める。
それに反論する、断る、といったことは、最後まで話を聴いてから、きちんと筋道立てて話す。
そのために時間が欲しい場合は、時間もらえるようにリクエストをする。
その気持ちがあれば、恐れることはない。

➽山より大きい獅子は出ない

ほら、『山よりデカい獅子は出ん』っていうでしょ。
「いや、それは聞いたことないです。」なんだそれは?という顔をしていた。

ビビっていようが、恐ろしく感じていようが、山よりも大きなライオンはいないよ。というのが転じて、『自分の器を越えるようなことは決してない』や『どんなに驚くようなことを言われたとしても、乗り越えられない試練はない』という意味ものだ。

なんのことはない。
自分が勝手に「怖い、恐ろしい」と、そう感じて、慄いているだけだ。
とそこまで話して、この時間を終えた。

その夜、メールが届いた。
「おかげで落ち着いた気分で、社長に会いに行けました。それでもいざ扉の前に立つと緊張して、背中に汗が流れました。思い切って扉をあけてみると、部長もいました。話は今のプロジェクトを外れて、社長肝入りの別のプロジェクトのリーダーをやれということでした。違う意味で緊張してきましたが、前向きな気持ちです。新たなプロジェクトではよろしくお願いします。」とあった。
 
良かった。また一緒にやっていきましょうとだけ書いて返信した。

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2022.3.13追記
この課長は、いくつかの大型プロジェクトを成功させ、今や本部長。
先日、オンラインで話した時に、「やはり人の話を最後まで聴くことはほんとに効く」と笑っておられました。
だけども、今はその時間がなかなか取れずにいるとのこと。
コロナ、ウクライナと環境変化があまりに激しく直撃しており、業績も下降気味。
でも自社にあった方法や市場は必ず見つられると思っているとのことでした。
本当のピンチがこれからやってくるのは見えているので、チャンスに転じていくようにするとも。頼もしい本部長である。

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