人事異動は最も強力なメッセージ

大抵の企業で、1月中旬あたりから、来期の組織体制に伴う人事異動を具体的に考える。
実際には、前年12月末にはある程度の骨子はできているものだが、具体的な意思決定に向けて動き始める時期でもある。



どんな企業にとっても、事業が成功するか否かはヒトにかかっている
これは多くの企業経営者の誰もが共通して思うところ。
そして、多くの企業がヒトの問題でつまづいてしまうのも共通するところ。

異動に対する社員の気持

社員にとっては、「希望通りに異動できるか?」「そのまま据え置きなのか?」あるいは「青天の霹靂」的、「大どんでん返し」的なものが来るのか、気になるところだろう。
そういった戦々恐々な状態な人もいれば、どうせ何も変わらない・変わるはずがない・変わるわけがないと決め込んでいる人もいるだろう。
いずれにせよ、自身の具体的なキャリアプランを考えている人ほど、気になっているということだ。
もちろん事前に内定を受けて安心している人、悩んでいる人といろいろいるだろう。
社員としては、どんな異動が来ても、受け入れざるを得ないし、希望が通らなければ辞めてやると考えている人もいるだろう。

●納得できるか!辞めてやる!
つい先日、スタバでこんな会話が隣のテーブルから聞こえてきた。

30歳前後とおぼしき男性2名。
「もうあんな会社辞めてやる。なんで俺が異動なんだよ。しかも内勤だぜ。意味がわかんねえよ。どう考えてもおかしいだろ!」
「俺も部長に立ち話で、異動希望は叶えられそうにない話を聞かされたよ。理由も。今のままかって感じだけど、納得はしているよ」
「お前はいいよ。俺も残りたかったんだよ。」
「だけどお前さ、大して仕事してないし、はっきりとした自分の考えはないじゃん。」
「そりゃそうだけどなぁ・・・来期こそはって思ってたんだよ。」
そういう振りして、やる気のないのをごまかすのはやめときなって。ほらドラえもんもいってただろう?『逃げたら終わり』って。(笑)」

この会話を聞いていて私は思わずカフェオレを吹き出しこぼしてしまった。
ふたりとも私に気づいて、怒っていた方の人が「あっ、聞こえてました?大きい声出してすみません。笑かしてしまいました。」と照れ隠しっぽく笑っていた。

この会話がこの記事を書くきっかけとなった。
この会話を思い出してみると、いくつか疑問が浮かんでくる。
・こういう会話ができる二人の関係性はどのようなものであるか?
・そもそも納得していない彼は異動希望に明確な意思表示していたのか?
・内示があったにせよ、ないにせよ、納得度に違いがあるのは何故か?
といったものだ。

二人の関係性は、きっといいもので、腹を割って話せる関係性なんだろう。いわゆる良い同僚に違いない。
怒っていた彼は、明確な意思表示をしていたかどうかはわからない。多分していたからこそ怒っていたのかもしれないし、意思表示をしなくても上司はわかってくれているだろうと思いこんでいたのかもしれない。
とすると、この二人の納得度の違いは何だろうということに、まだ考えられる余地があるなと思えた。

通常、事業がうまくいっていようが、そうでなかろうが、人事異動やそれにともなう組織編成は必ずある。そして経営者はここに必ず「意図」を持っている。
意図を持たずに人事異動を決める経営者もいるだろうが、これは論外だろう。
では経営者はどんな意図を持っているのか?

異動・組織編成に対する経営者の意図

経営者の意図は「会社・組織を次のステージへと導くため」のものだ。
経営者の意図は必ずここにある。それがどんなことであってもだ。
欧米の会社と日本の会社の大きな違いは、資源が「人」にしかないということなのだから、その最大活用・応用は人事に必ず現れる。
もし現れないのだとしたら、その会社の発展はもはやないに等しい。
今後は維持さえも難しくなる。

経営者や案を考える担当者は、この「次のステージ」へ向かうための最適解を求めて、人の異動を考える。
「この分野を伸ばすためには、どのような人材が必要か?」
「どんな時でも必ず対応策を考えていた人は誰か?」
「この人のキャリアを考えると、次はここに挑戦してもリスクが高いのではないか?」
「経営面で次世代、次々世代を担っていけそうな人は誰か?」
「後輩に仕事を残していこうと考えて行動しているのは誰か?」
といったところだ。

人事制度の評価やジョブローテーション、昇格試験などの状況や結果といった情報から、難解なパズルを解くように、いろいろと考えていくわけだが、大人数の異動になることはさほど多くはない。
中小企業にとっては、大企業と比べて圧倒的に人が足りないのが事実だからだ。
その大企業ですら、最近は人材が不足している(2020/02/24追記)
しかし経験の浅い経営者は、この「異動はさほど多くはないものだ」という点だけを捉え、単に人が足りているか否か、今必要かどうかで判断することが比較的多い。これは冷静に考えれば、「将来が見えないよ・見るつもりもないよ」と会社がいってるようなもので、社員にとっても痛いが、結果として会社にとっても痛い。

痛い会社の多くは、肝心の「会社としてのビジョンに向かうことになるかどうか」、「人材のキャリアプランに合っているかどうか」をよくよく考慮せず、組織図を完成させてしまうことが見受けられる。ここは慎重になりたいところ。
何度も言うが、日本の企業にとっての資源は「人」にしかないのだ。
ましてや日本全体が人口減少に向かっているのだからなおさらだろう。

人事異動は最も強力なメッセージである

「人事は人材という資源の最大化を考える」ことがミッションであるとよく聞く。
これが会社が「次のステージに向かうこと」につながる。
つまり会社の意志を示せる最も強力なメッセージということだ。
なので、マイナスに働くと回復するのに時間と労力が必要となる。
最も強力なメッセージであると考えれば、丁寧な説明があってこそプラスになるというものだろう。

【異動を受ける側に求められる視点】
社員としては、自分のキャリアプランにこだわるのは理解できるが、それは現在のポジションで考えたものでしかない。1つ上、2つ上のポジションであれば、自分自身はどう見えるか?どう判断するかも考えてみるのも、メッセージの受け取り方の一つだろう。

それでも納得できなければ、しっかりと話し合えるだけの意思表示ぐらいはすれば良い、
意思表示もせず、文句を言い続けるのは簡単だ。だけど現実逃避しているだけに過ぎない。「どうせ私は・・・」と自身のなかでつぶやきを繰り返すだけだ。そこにやる気もその気も何もない。マイナス方向に働くだけで、つまらんつまらんと仕事を続ける状態が続くだけだ。

【異動を下す側に求められる視点】
反対に経営者やその案づくりをする担当者は、人事異動から汲み取れるメッセージは、届かない場合もあるし、勘違いが起きることもあることを忘れないようにすることも一つだろう。

時間をかけて育ててきた人材は、それなりに成長している。経験も積み重ね、知識もつき、成長にともなって生活も変わり、価値観に変化も現れてくる。
どんなに美辞麗句を並べたところで、社員は見抜く。見抜かないまでも疑問に感じる。
結果としてモチベーションは低下し、これを向上させるために外的刺激を与え続けることが必要となり、時間とお金を無駄に使うことになるに違いない。
外的刺激はモチベーションのきっかけにはなるが、長続きはしない。

人事異動は次のステージに向かうための最強のメッセージであることを、双方が理解していれば、それだけでも事業が発展するのではないかとさえ思える。

件の彼等の納得度の違いは、この辺にあったのではないかと思える。

2020年2月24日追記:
この記事は2012年1月30日に投稿したものです。
きっかけは文中にある通り、スタバで小耳に挟んだ会社員の会話でした。
きっかけとなった二人を見かけたことはないけども、もし見かけたら、声をかけたいと思っている今日このごろです。きっと覚えてないだろうけど。



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