顧客ニーズがわかれば提案の幅は広がる

私が担当することになった「営業活動改善プロジェクト」の話。営業担当者としては、まだまだ若手と言われる人達と超ベテランと言われている人達がメンバー。

営業担当者の改善課題の一つに顧客ニーズを聞くというものがある。いわゆる「ニーズヒアリング」というものだ。
しかし「ヒアリングしても、わかりきったようなことだけしか出てこないし、どうにもこうにも提案に結びつかない。」ということが多いと言う。詳しく聞いてみると、顧客ニーズをヒアリングして提案に結びつかない理由が浮き彫りになってきた。
この理由は「顧客ニーズヒアリング」がうまくいかない他業種でもよくあることで、以下の3つに大別される。

肝心なこと、聞いてなかった

●そもそも顧客ニーズというものが何であるかを理解していない。
●こちらの都合にあったことだけを記録している。
●顧客ニーズのなかには答えはないと考えている。

そもそも「顧客ニーズ」というものが何であるかを理解していない。

まず疑問に思ったのは、「顧客ニーズ」を聞くことに関して、営業担当者が準備できているのかということだった。確かに研修やトレーニングも受けているので、「聴くこと」そのものやヒアリングすることの重要性は理解している。それが提案に結びつくことも知っているのも確かだった。
しかし、ただ「知っている」だけのことで、肝心なところを理解していないのがわかった。それはニーズとウォンツを区別して捉えていないということだった。

簡潔に言えば、ニーズは「顧客がなんとかしたい、こうなりたい姿や状態や欲求」として表現される。ウォンツは「その解決手段」である。辞書的にはウォンツは欲求でもあるので、ややこしいが、営業やマーケティングでは欲求はニーズであり、それは顧客自身の目的とされる。言葉の意味合い的には少しややこしくなるが、この単純な違いを区別をしていないことから、営業活動上のコミュニケーションが表面的な会話に終始してしまうことになる。

多くの場合、顧客からは「○○○が欲しい」と具体的な商品やサービスが出てくることが多い。「エステを受けたい」「スマホが欲しい」「ヒアリング手法を身に着けたい」といったものだ。プロジェクトの営業担当者はこういったものをニーズだと勘違いしてしまうことが多い。
 
具体的なものが出てくると、営業担当者としては、これ幸いと言わんばかりに飛びつく気持ちは理解できる。私も経験がたくさんある。しかし「ヒアリング」して聞きたいのはそういった具体的なウォンツに留まらず、その奥にあるニーズだ。じゃあ、何をどう聴けばいいのかということになる。
 
顧客の答えが具体的であればあるほど、あるいは、固有の商品名やサービス名などが出てくれば、それはウォンツであり、解決手段であるということを認識しておくことが必要だ。
そしてニーズを探るには、最初に出てきたウォンツ的な言葉に飛びつかず、これを更に掘り下げていくことが必要だ。
  
「なぜ、エステを受けたいのですか?」と聞いてみれば、「綺麗になりたい」「痩せたい」といった答えが出てくるだろう。更には「今のボディラインを保ちたい」ということもあるかもしれない。実際には、このような聞き方をしないと思うが、あくまでその商品やサービスを選ぶ理由を聞きたいのだ。
まずは、ニーズとウォンツを区別し、ウォンツが出てきた場合、それにどのような価値を見出しているのかを知ることがヒアリングのスタートラインだといっていいだろう。

こちらの都合にあったことだけを記録している。

更に気になったので、ヒアリングを記録したノートを見せてもらった。そこには、日付、場所、相手の名前、ヒアリングのテーマが書かれていた。他には、単語で「サービス名」、「値段」や「納品日時」に関する相手の要望が書かれており、メモ程度で終わっていた。これでは御用聞き営業でしかない。
そこで、そのノートの所有者である営業担当者に質問してみた。

質問:このお客様は、なぜ、このサービスが欲しいと言っていましたか?
回答:必要だからそういう話しになったんだと思います。つまりはニーズだと思いました。

質問:その提案したサービスにお客様は満足されていましたか?
回答:えーと、これしかないんだったら、仕方ないわねって契約していただけました。
 
質問:そのサービスにするという結論に至るまでに、どんな話しをされていましたか?
回答:あまり思い出せないんですけど・・・

質問:じゃあ、そのサービスにするにあたって、なぜそのサービスを使ってみようと思われたのでしょうね?
回答:・・・・・・随分以前のことなので、ちょっと思い出せないけど、確か、気持ちよさそうなので、リラックスできるかなぁとか言ってたような・・・ああそれと、リラックスできれば、ストレスも解消できそうだし、それだけよく眠れるかもしれない・・とか言ってました。

質問:なるほど、それでは、気持ちがよくて、リラックス効果が期待できるものは、このノートに書かれているサービス以外に何かありますか?あるいは睡眠を良くするものなど、もちろん自社で提供できる範囲でいいですよ。
回答:リラックス効果が期待できたり、睡眠を改善するという意味では・・・、ウチだと他にも、え~と、2つぐらいあります。

質問:そのお客様は、他の2つのサービスのことをご存知ですか?お伝えしましたか?
回答:・・・・わかりません・・・・多分知らないと思います。これまで案内したことはないので・・・あっ、これだったら、全部で3つの提案ができますね。ああ、そういうことか!ヤッバァ~、なんで書いてなかったんだろう?・・・ああ、サービス名が出てきたから、それに飛びついたんだ。駄目じゃん私。」と途中で気づいていた。

質問:もちろん3つ提案はできるとは思いますが、会社としてプッシュしていたものはどれですか?
回答:最終的に契約してもらったものです。・・・・あっ、結果としてはマルなんですか?

質問:結果としてはマルでしょうね。ただそれに関連したものの案内をできていればもっと良かったとすればどうしてました?
回答:契約いただいたエステのオプション以外にも、お持ち帰りいただけるローションなどの案内もできていたかなぁって思います。

質問:次にヒアリングするタイミングがあったら、どうしますか?
回答:相手のウォンツに飛びついたとしても、お客様の声をしっかり聞いて、なぜそれなのかを確認してみて、違うものの可能性を探ってみたり、関連する商品の追加オーダーを探ってみたいと思います。

質問:はい、それを顧客志向の営業スタイルといいます。固有のモノやサービスに対して顧客が何を期待しているのか?裏返せば、そこにニーズ(相手の欲求や目的)があります。これがわかれば、提案の幅は広がり、顧客に選択してもらいやすくなりますね。

この営業担当者の気づいたことは、顧客との会話のなかで、ニーズを聞いていたにも関わらす、これを記録していなかったため、御用聞きに終わり、値段勝負の提案になってしまっていたことだった。

ノートやメモにどのような内容を記録するのかは人それぞれだが、せっかく聞けていたニーズを記録しないのは、自ら機会損失しているようなものなので気をつけたいところ。
しっかり記録しておけば、提案をつくる際に、振り返る時にも、生々しく、蘇ってくることもある。
自分の仕事に直接関係ないところにもニーズが隠れている場合もあるので、しっかり記録は取っておきたい。

顧客ニーズのなかに答えはないと考えている。

私の経験だけでいえば、確かにニーズには「答え」はある。いや、正確には「答え」であったり、「答えめいたもの」がある。ここで言う答えはあくまでもニーズ。ここを聞き落としている営業担当者は意外に多い。
では、なぜ顧客ニーズヒアリングをして、営業担当者が欲しい答えが出てこないのか?
答えは簡単だ。ウォンツとなるものを求めているだけだ。つまり営業担当者にとって都合のいい答えを顧客がしてくれることだけを考えていて、その顧客が抱えている問題や欲求を捉えようとしていないからだ。

営業活動の一環で、顧客ニーズを聞く機会は確かに必要だし、どんな業種であっても、ヒアリングするプロセスは定義されている。そしてそのトレーニングも研修やOJTで行われている。しかし学んだ通りにヒアリングしても、一向に「答えらしき」ものを聞き取れずに時間切れになってしまうことが多々あると言う。

こういう状態を繰り返せば、「顧客ニーズのなかに答えはない」と思えて来るのは当然だし、そのうち「どうせ聞いても、大しことは出てこない」としっかり聞くことをやめていくことになる。

この「時間切れ」というところは、BtoBにおいてはそもそもアポを入れる段階で、次回訪問の際に「○○○について、じっくりお聞かせください」と目的を伝えているのかどうかで、「時間切れ」を防ぐことは可能になるだろう。それはBtoCでも日時の約束が取れる相手であれば可能だろう・

営業担当者と同様、相手も忙しい。アポを取る段階で訪問目的を伝えておけば、相手もそれなりに考えて答えられるように準備はする人は立場が上になるほど多くなる。(絶対ではないけれど)訪問目的を伝えておくことで、相手の準備を促すことにつながるのだから、これは押さえておきたいところ。

一度研修やトレーニングを受けたとしても、それが習慣にならなければ、一過性のものになる。このプロジェクトでは、メンバー自身が、まずニーズとウォンツの区別をしっかりできるようにトレーニングを重ねることにした。

-------------------------------------------------------------------------------------------
【2021.08.21追記】 
上記の記事は、2015年に書いていたものに2018年に加筆したものです。当時はヒアリングといえば、じっくり聴いてしっかり受け取り、記録することが「是」とされていた。ところが 新型コロナ感染拡大で、5回目の緊急事態宣言が発令され、感染者数は増加傾向にあり、病床数は逼迫、医療崩壊寸前と言われているなか、それでも営業活動をしなければならない担当者にとって、長時間のコミュニケーションは非常に難しくなった。こちらがよくても相手が嫌がるし、相手がよくてもこちらが心情的に前向きになれないだろう。
オンラインに切り替えやすいBtoBならばともかく、BtoCのビジネスにおいては、なかなか難しいのが実情だ。だからといって諦めるわけにはいかない。
考え方としては、一回の会話をものの数分で終わらせ、これを繰返していくしかない。 

この時に有効なのが、BtoBの営業担当者がやっているニーズ仮説を立てるということだ。詳しくは改めて記事を作成するが、ざっくり言うと以下の流れで進めていく。
1)これまでの経験値から、ターゲットとする顧客ニーズの仮説を立てる
2)仮説に基づいて選択肢を3つ程度考え、わかるような資料を用意する
3)ニーズ仮説に基づいて、クローズ質問で確認する。
4)仮説がヒットしていれば、3つの提案を手短に話す
  仮説がヒットしていなければ、何がニーズかを聴いてみる(上記のものを参考に)
5)次回の訪問アポを入れて、それまでに考えておいてもらうように依頼する
ざっと3)~5)まで3分~5分程度で済むように訓練する。
1)2)をしっかり作り込んでおくことが重要ではあるが、完璧を目指さないようにする。

この流れをつくってしまえば、ソーシャルディスタンスを保ちながらも短時間でのコミュニケーションも可能となるし、顧客側も自分のことを理解してくれていると安心できるだろう。何も奇をてらったやり方をする必要はない。今まで時間をかけて一回で済ませていたことを、短時間数回で分けてすすめる方法を考えることが求められているのだと切り替えることだ。
ただし従来のやり方を【是】と考えている限りは、この切り替えは難しいだろう。
柔軟に頭を切り替えて、すぐにでも取り組むことをお勧めする。
 
また、リアルコミュニケーションだけに留まらず、メールやSNSを使って1)2)を済ますことが望ましい。相手が高齢者だから、ITには弱いだろうと思っているのは大間違いだ。読むことぐらいは高齢者であっても、既にできるレベルになっている。
高齢者がITは無理だと言われていたのは、今から20年ぐらい前の話だ。その頃現役バリバリだった40代が高齢者になっているのだ。苦手に思っていても、使えない人の方が少ないと捉えていて間違いないだろう。

このブログの人気の投稿

何からでも学び取る人と学ばない人の違い

現在ツイッターに注力しています

リアルとオンラインコミュニケーションの決定的な違いと対処