BCPの価値と見直すポイント5つ


本日9月1日は「防災の日」8月30日~9月5日までが防災週間。
2011年の東日本大震災後、多くの企業が地震対策の一環で、BCPに取り組んだ。その後、豪雨・スーパー台風が各地で相次いだが、当該地域は別としても、直接被害がなかった地域は、見直すことは少なかったことはよく聞く。

さらに2020年になって、新型コロナ感染症対策が要請され、企業にとっては、経済的ダメージが大きくのしかかった。そして感染症対策もBCPの一つとして扱われるようになった。
感染症対策そのものは、2009年の時点で策定されていたのだが、これまで大きく扱われることはなかった。

加えて今年の夏場は熱波による猛暑日の連続と熱中症の増加。
これについてもいずれBCPの範囲に入れておくことになるかもしれない。

➽➽なかなか取り組めない中小企業のBCP

中小企業ではBCP対策が進んでいるかどうかといえば、進んでいるとは言い難い。なにしろ、少ない人数で事業を回しているのは、どこも同じだろう。
そのために、内閣府が定めた「事業継続ガイドライン」があり、中小企業庁が「新型インフルエンザ対策のための中小企業向けBCP策定指針」を出している。
これを参考につくれば、早晩、完成させることはできるだろう。
各社の各事業まで細かくフォローされたテンプレートではないので、会社全体は当然としても、少なくともフロント系とバックオフィス系のものが用意されていなければ、意味をなさないので注意したいところだ。

➽予防対策とBCP

またBCPはあくまでも、その名前の通り「事業継続計画」だ。
事業を継続し、回復・復旧するための実行計画であるので重要だ。

しかし予防対策としての防災対策や感染防止策と混同されていることを少なからず見受ける。
防災対策や感染防止策は、その名前の通り、BCPが発動される前段階で必要な対策。ややこしいことは否めないが、問題解決思考における対策の区別をあてはめれば、理解しやすいだろう。

予防対策があって、被害を被らないようにする、あるいは、被害を少なくするようにしておき、その上でBCPが発動され、事業を継続しながら、いち早く回復していくための実行計画となる。
しっかりと予防対策としての防災対策や感染防止策が区別されていれば、BCPの中に含まれていても混同することはない。

➽➽BCPの原則ともたらす価値

予防対策があるから大丈夫だ。避難訓練もしているし、緊急時連絡網もマニュアル化されており、その訓練もしているから大丈夫だ。合わせて備蓄もしているので大丈夫、時差出勤や在宅勤務の体制も考えてあるから大丈夫だと考えている中小企業も多くある。

予防対策とその実行は、あくまでも被害を少なくするためのものであるから、現在以上の価値がもたらされるわけではない。
では、BCPではどのような価値がもたらされるのか?

➽BCPの原則

BCPの原則は、社員の安全確保。
企業の事業活動を回復させ、社会に商品・サービスを提供し続けることが目的であるが、これを担うのはあくまで社員。だから大前提となる。
このブログでも数回書いてきたが、社員の安全確保が第一。
これが顧客を守ることにつながる。

今回の新型コロナ対策で、とある地方のショッピングモールが逆をやってしまい、モールに務める従業員が感染クラスターになってしまった。「顧客を守ることが第一」としたために、従業員の安全確保が疎かになってしまったということだろう。その時の気持ちと判断はわからないでもない。

➽BCPがもたらす価値

以下、BCPが作成されており、社内で共有化されている場合、どのような価値がもたらされるのかをまとめた。

●事業活動の観点
これが最大の価値であることはいうまでもない。
災害時・感染拡大時における事業活動を混乱なく継続・回復できること。
更に、自社にとって重要な業務とリソース、これに伴う予防対策を改めて確認することにもつながり、通常時の業務効率や経営判断にも役立つ。

●ブランディングの観点
社会が求める商品やサービスを平常時より劣るものの、提供し続けることで、社会的責任を果たすことになり、長期的には、企業イメージの向上につながる。
また、災害時・感染拡大時の自社としての対策や代表者からのメッセージを社外に発信することにより、リスク管理を徹底している企業として、取引先や顧客からの信頼を得ることも可能となる。不安の中に「安心感」を提供することになるからだ。

➽➽実行できるBCPにするために見直す

防災対策にしても、BCPにしても作って終わりというわけではない。
この計画が実行できなければ意味をなさない。
計画づくり自体が目的なのではなく、実行可能な計画を立て、マニュアル化し、共有化することが重要だ。

ReviewOfBCP

















➽BCPを見直すポイント5つ

BCPのポイントとしては、以下のものが策定されているかどうかだ。

●継続・縮小させる事業の選定ができるか?
これは経営層の役割だが、中核となる事業と他の事業をどのぐらいのレベルで継続し、徐々に回復させていくかを決めておく。
自然災害の場合は、人が動けてもインフラが分断されている可能性があるので、
サプライチェーンが機能しないこともある。
その場合を想定したBCPが必要となる。

●人員と業務をどうマネジメントするか?
感染症の場合は、チームによる交代勤務や在宅勤務によって、ある程度の事業継続は図れるが、自然災害の場合は、出社そのものが不可能になる場合もあるし、業務を続けること自体が不可能になる場合もある。そうなった場合を想定して、社員一人で複数の業務を進められるように、業務のマニュアル化と訓練はしておく必要はある。
もちろん、ここにはマネジメントもクロス型でやる必要も発生することを視野に入れておく

●運転資金の確保をしておく。
いくら事業を継続できたとしても、自然災害によりインフラが分断されたり、感染症で社員が身動きできず、事業停止に追い込まれた時のことを想定し、最低でも3ヶ月程度の運転資金は確保しておかねばならないことは、東日本大震災での復旧や新型コロナ対策で明らかになった。投資的に考えて蓄えておくことは必要だろう。

●BCP発動基準は明確か?
自然災害の場合はどうするか、感染症の場合はどうするか、どのような状況になれば、どのような体制でBCPを発動するのかを決めておく。
もちろんその際の指揮系統、経営トップの代役の想定も必要だ。

●備蓄はあるか?
これはBCPの範疇ではなく、あくまで予防対策(防災対策、感染予防対策)ではあるが、備蓄の必要性はわかっていても、フタを開けてみれば備蓄をしていなかったとよく聞くので、敢えて上げておく。
何を備蓄しておく必要があるか?どれぐらいの備蓄が必要か?のリストが明確であり、かつ備蓄そのものが実行されている状態を普段から保っておく。
自然災害のリスト内容と感染症のリスト内容は違うものであるはずだ。

以上の5点に答えられないBCPだと、誰もが困ることになるので気をつけたい。
他にもあるだろうが、今あるBCPの最低この5つのポイントだけは見直して、更新しておくことをお勧めする。

➽共有すること・共有化すること

誰が見てもわかる・できるレベルようにすることによって「共有」となる。
その上で、一人ひとりが自分が何をすべきかを判断し、行動に移れるようにすることが「共有化」
少なくても共有まではしておきたいところだ。

最近、小規模な地震が続いている。
自然災害と感染症が重ならないことを願うばかりだ。


今回の記事を作成するにあたって、リスクマネジメントのコンサルタントである秋月雅史氏にアドバイスをいただいた。感謝の意をこめて、彼の最近の研修内容をリンクしておく。

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